佐瀬雅行写真展に向けて

恐山(青森県むつ市)

本州の最北端、下北半島の中央部に位置する霊場。天台宗の慈覚大師円仁が開いたと伝えられる恐山菩提寺の境内から宇曽利湖の湖畔まで、岩場から水蒸気や火山性ガスが吹き出す「地獄」、カルデラ湖の湖水を縁取る白砂の「極楽浜」などが点在する。古来、地元では「人は死ねばお山(恐山)さ行ぐ」と言われてきた。イタコの口寄せで有名だが、イタコが恐山に集まるようになったのは明治以降で時期も夏の大祭などに限られる。

  • 極楽浜から飛び立つ鴉は山に帰った死者の霊だろうか

何度訪れても「異界」に身を置いているような不思議な感覚にとらわれる

みちのく特有の祈りの姿は北東北、とりわけ外縁部の下北半島や津軽半島に色濃く残っている。恐山を訪れるのは、これで何度目だろうか。

同じ東北地方でも在住する仙台から下北までの道のりは遠い。東北道、八戸道を経て国道338号を北上する。下北半島を斧に例えれば柄の部分の東岸を進み、やがて核燃料サイクル施設のある六ヶ所村に入る。その先は東北電力と東京電力の原発がある東通村。下北半島では北端の大間町にも原発が計画されている。「辺境」の地に不都合な施設が押し付けられているようで、いたたまれない気分になる。

東通村から内陸に向かい、むつ市に入ったのは仙台を出発してから約5時間後。恐山には、むつ市中心部からさらに30分ほどかかる。「三途の川」に架かる橋を渡って恐山菩提寺の駐車場に到着した時は、さすがに疲労困憊だった。 境内に入ると本堂や宿坊は立て替えられていて、以前のような風情は感じられない。

しかし、荒々しい岩場が連なる「地獄」に足を踏み入れると雰囲気が一変した。硫黄の臭気が漂い、あちこちに小石が積み上げてある。風が吹くたびに音を立てて回る原色の風車。何度訪れても、「異界」に身を置いているような不思議な感覚にとらわれる。だからこそ「死者の霊が帰る山」と信じられてきたのだろう。 観光バスの団体客が到着するとにぎやかになるが、すぐに静寂を取り戻して鳥の声しか聞こえない。

いくつもの「地獄」を巡り歩いた後、宇曽利湖の「極楽浜」を目にして何かほっとした気分になった。湖水はエメラルドグリーン、ブルー、硫黄の沈殿したイエローなどが入り交じり、夕日に映える白砂がまぶしい。宇曽利湖を取り巻く釜臥山などの外輪山が霞んで見える。太陽が沈むまでこの光景を眺めていたかったが、宿に向かうため恐山を後にした。(1997年10月撮影)

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