佐瀬雅行写真展に向けて

仏ヶ浦(青森県佐井村)

下北半島の西岸、津軽海峡に面して奇異な形をした巨石が2キロ以上にわたって連なる。緑色凝灰岩の断崖が長い年月の間に風雨や波によって浸食され、独特の景観が生まれた。浄土のイメージを重ねて、岩には「如来の首」「五百羅漢」「観音」「十三仏」など仏教にちなんだ名が付けられている。古くは仏宇陀(ほとけうた)と呼ばれていた。ウタはアイヌ語で浜を意味するという。国の名勝および天然記念物に指定されている。

  • 紺碧の海と澄み切った空の間に灰白色の奇岩が連なり、訪れた人を異界へと誘う

仏ヶ浦は舟でしか近づけない“陸の孤島”で、地元の住民だけが知る秘境だった

仏ヶ浦は本当に遠いと実感した。むつ市田名部のホテルを出発して国道338号を西に向かい、川内地区で内陸に入る。ヒバ林の中を進み、かわうち湖を経由して、再びカーブが連続する338号に出た。休憩も取らずに走り続けること1時間30分、ようやく仏ヶ浦の駐車場に到着した。高低差約100メートルの階段を下りると、緑がかった灰白色の巨大な奇岩が林立する海岸線が広がっていた。

道路が整備された現代でも、佐井や脇野沢、牛滝の港から観光船を利用した方がアクセスは楽だ。かつて仏ヶ浦は舟でしか近づけない“陸の孤島”で、地元の住民だけが知る秘境だったことも理解できる。観光船が着くと瞬時にぎわうが、間もなく人影は消えて波音とエゾハルゼミの鳴き声しか聞こえなくなる。潮の引いた岩場を歩き回り、異様な姿の岩を撮り続けるうちに、異界に入り込んだような錯覚に陥った。

海から糧を得て暮らしていた人々にとって、仏ヶ浦は来世への入口であり、大事な信仰の場であったのだろう。桟橋の近くに地蔵堂が建てられ、岩の間にも石の地蔵が祀られている。毎年7月24日の「仏ヶ浦まつり」では女性たちがご詠歌を奉納し、長い数珠を操るという。それにしても本州の北端に位置する下北と津軽、二つの半島に地蔵信仰が多く見られるのはなぜだろう。  日没まで海岸にとどまり、夕日に照らされて白く光る仏ヶ浦を見たいと思ったが、暗い山道に恐れをなして断念した。(2014年6月撮影)

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